自社ブランド商品により顧客の囲い込みを行う地方の食品卸
※この事例は顧客情報への配慮から、一部のディテイルを変更して紹介しています。
イントロダクション
合併・吸収による大手家庭用食品卸の再編は一息ついた印象がありますが、業務用卸の再編は未だ続いています。今後も大手による吸収や、地方の業務用卸同士の合併が続くと思われます。デフレの圧力と大手の圧倒的な資本力による価格攻勢や営業力は脅威です。(これはだしメーカー以外に、地方の業務用食品卸という側面を持つ節辰商店としても感じていることです)。課題に対する一つのうち手として、「工場なきメーカー」としての機能を強化することがあります。この事例は良質な商品を自社ブランドで売り出し、良い意味でしぶとく利益を出し続ける卸の事例です。
お悩み ―現代の業務用食品卸、その一般的課題。あるいは価格競争の果ての風景
現在は本業に回帰しだしの専門店を標榜する私たち節辰商店も、かつては「総合食品卸」の看板を掲げていました(現在も売上の半分は他社取り売り商品の卸です)。だから、中小業務用卸の課題は痛いほどわかります。規模の経済(正確には「範囲の経済」や「密度の経済」なのですが説明は省きます)で攻勢を行う大手と戦うことが消耗線の様相を呈しているのです。際限なき価格競争ほど企業を疲弊させるものはありません。「中小企業庁の経営指標」(中小企業庁編)を経年で追っていくとわかりますが、中小食品卸は売上高・利益率とも年々減少していっています。
きっかけ ―自社ブランドの立ち上げを構想する
この事例の食品卸の経営者は、著名な大学教授の講演会を聞きました。彼が言うには「100年続く、地域に愛される企業を目指すのであれば、少なくとも20%は自社商品を持ちなさい」とのことでした。しかし、いまさら工場を立ち上げるのは資金的その他の経営資源を考えると現実的ではありません。そこで経営者は自社ブランドの立ち上げを構想します。彼の会社が和食や麺類の業態に強いこと、規模は小さいかもしれないけれども品質はたしかな取引先と信頼関係を築いてきたことが、この戦略を筋の良いものとしました。
解決策 ―メーカーとwin-winの関係を築く
売れ筋の商品を地道にプライベートブランド(PB(自社ブランド))に切り替えていきました。難しかったのはめんつゆや液体だしです。大手メーカーは自社ブランドのために多大な投資(例えば広告宣伝費や販促費)をしています。それを卸のブランドとして売り出すことは理にかなわないこともあるのです。また小ロットからオリジナル商品を作ることも経済性の面から難しいという感触です。節辰商店が選ばれたのはPBへの柔軟な対応でした。また、節辰商店が中部地区以外への販売ルートを求めていたことにより双方の利害が一致しました。
その後 ―価格競争からはしばらく降りる
節辰商店がOEM生産する自社ブランドのだしパック・めんつゆはこの会社の看板商品になりました。また、なぜか新規開拓もうまくいくようになりました。自社ブランドの商品ということで営業マン達のモチベーションが上がったのが要因でしょうか。営業マン達が「ぜひ売りたい」という商品を作ったことは、経営者としてはうれしいことでした。また、どこにでもあるNB品であれば、やはり価格競争になってしまう。自社ブランドなら、少なくともしばらくの間はそこを回避できる。この経営者もやっとちょっと一息つけたという感触を持ったと言います。